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東京地方裁判所 昭和55年(ワ)5661号 判決

原告(反訴被告)

株式会社大進

右代表者

土屋直蔵

右訴訟代理人

金田充男

被告(反訴原告)

アート企画株式会社こと

細井邦夫

右訴訟代理人

天野等

主文

被告(反訴原告)は、原告(反訴被告)に対し、二六万四〇〇〇円及びこれに対する昭和五三年一一月一日から完済に至るまで年六分の割合による金員の支払をせよ。

被告(反訴原告)の反訴請求を棄却する。

訴訟費用は、本訴反訴を通じて被告(反訴原告)の負担とする。

この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実《省略》

理由

一本訴請求について

1、2〈省略〉

3  原告と被告間に原告が劇画砂の金字塔昭和五三年一〇月一二日発行号に被告の商品の広告を掲載する旨の契約が成立したこと、被告が原告から今回は広告のスポンサーがなく、出版社からなんとかそれを埋めてくれと頼まれ困つているので広告を出してほしいといわれて右契約を締結したことは当事者間に争いがない。そして、〈証拠〉によれば、原告と被告は、右契約(正確には、原告が、被告を代理して、株式会社主婦と生活社と、同社発行の週刊女性別冊「劇画砂の金字塔」完結編昭和五三年一〇月一二日発売)に四色一頁で被告が行なう縁起物の特別頒布の広告を掲載する契約を締結する契約である。)を同年九月五日、料金を一五万円とし、その支払日は同年一〇月末日の約定で締結したこと、右広告はいわゆる穴広告(雑誌社の予定していた広告が入らなかつたりしたためにできた雑誌の空白箇所を埋める広告)であつたので、その掲載料金は定価の五〇万円を大幅に下回つたものとなつたこと、反面、印刷ないし出版まで時間的に切迫しており、広告委託者たる被告の校正も急がなければならない状況にあつたこと、印刷業を本業とする被告はその事情を十分知つていたと思われること、原告は、同年九月七日、広告の対象となる縁起物の撮影に立ち会つたうえ、同月一一日に被告から広告の原稿を受け取り、同日これを主婦と生活社に渡したこと、その後、原告は、被告から、校正刷りの交付を早くするようせかされたので、右劇画を印刷していた大日本印刷株式会社に対しその督促をしていたところ、同月二六日同社から校正刷りができた旨の連絡を受け、主婦と生活社を通さず直接大日本印刷からそれを受け取つて同日午後被告宅に届けたこと、原告は、翌二七日主婦と生活社から正式に校正刷りができた旨の連絡があつたので、同社から校正刷りと原稿を受け取り、これを直ちに被告宅にもつて行き、早急の校正を頼んだが、校正をしてもらえなかつたこと、原告は、主婦と生活社から早く校正をすませて返してもらいたい旨の催促を受け、翌二八日朝に被告に電話をして校正完了の有無を確認したところ、被告はまだ見ていないということだつたので、それなら被告の広告は右劇画に掲載されない旨伝えて電話を切つたが、その後再び被告宅に電話をして電話口に出た被告の妻に対し午後三時まで待つ今被告宅に使いを出した旨を伝えたが、被告はいない、校正はできていないという返事だつたこと、原告が主婦と生活社に校正済み校正刷り及び原稿を渡すタイムリミットはどんなに宥恕しても同日夕刻であつたこと、そこで、原告は、被告の広告を右劇画に掲載することを断念したこと、ちなみに、右校正は一時間もあればできることを認めることができ、右認定に反する被告本人の供述(第一、第二回)は信用できないし、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。

右の事実によれば、被告の責めに帰すべき事由によつて原告が右の契約上の債務である右劇画に被告の広告を掲載することが不能になつたものであることを認めることができるから、原告は、右の残債務を免れるが、民法五三六条二項によつて、被告に対し、右広告掲載料金全額を請求することができるといわなければならない。〈以下、省略〉

(並木茂)

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